vol.199 万能な厄介者

 竹伐りのシーズン。茅葺き施工において竹という素材は出番が多い。最も多用する押し鉾(並べた茅を縫い留める細い竹)は、適した末落ちのない細い竹を見つけるのは難しく、また多量に必要なことから仕入れざるを得ないが、棟飾りに使うような太い竹は、この時期に近くへ伐りに行く。

 棟飾りなど見栄えに関わる部分の竹は、頑丈ならいいというわけではなく、揃った太さや、理想的な反り方、といった条件があるから、竹林の中で一本一本吟味して選ばねばならない。それでも伐り倒してみると、思ってたんと違う、ということも多いのだ。注文したものをお店に取りに行く…ということでは済ませられない。

 

 ちょくちょく竹を伐らせてもらっているお家にお願いしに行く。快諾を頂いたものの、田んぼ脇の竹林の竹に困っているという話を伺った。案内されると、なるほど。日差しを邪魔するであろう背の高い竹が、田んぼのすぐ際で伸びている。もちろん伐ってしまえばいいのだが、シカ柵のすぐ脇ゆえ、うかつに倒すと柵を破壊してしまう。

 お施主さんはご高齢である。柵の向こうは急勾配の法面であるし、無茶な話であろう。竹を伐らせて頂く対価というわけでもないが、邪魔な竹をついでに倒しておく約束をした。

 

 数日後竹林に向かって、これは少々甘く見ていたと反省。シカ柵を傷めないように竹を倒すには、結構工夫がいる。田んぼ側から頭を落とし、柵の向こうへ回って根元から伐り倒す。慎重に、行ったり来たり。2~3本という話だったが、最も邪魔な竹を伐ると、次に邪魔な竹が目立つようになり、ついでにこれも伐ったろと欲(?)が出る。何だかんだで十数本、田んぼ脇の竹を倒した。

 

 これで本来の目的である竹が手に入ったことになるのなら良いが、形も太さも求めているものと違う。第一、田んぼ脇に伸びたものは今年タケノコから育った1年生の竹だ。キレイだが、耐久性を問われる用途には使えない。枝も幹も小間切れにして、竹林の中に放る。地味に、重労働である。

 

 茅葺きに限ったことなく、竹は古来より様々なことに利用されてきた万能素材であるし、竹林には独特の趣き、美しさがある。

 しかし、観光地や映画のシーンで使われるような竹林は、あくまでちゃんと整備されているものだ。それを自力で行なおうとすると、非常にマメに手間暇をかける必要がある。放置されれば、かき分けて進むことも出来ないような雑然とした竹林になる。茅場と一緒、定期的に利用してこそ使えるものになるのだ。

 

 自然は甘くない。活用してこそ万能な竹も、人の手が入らなければ日陰の発生源であり、害獣の巣であり、ひどい場合は不法投棄のターゲットである。どっぷりとはいかずとも、人の暮らしと自然と、上手に付き合いながらの生活が出来たらと思う。