vol.197 足場の解体

 どうにかギリギリ、次の予定の前に現場を終えることが出来た。一日が終わるごと、残された時間と作業量を再計算しながら、胃が縮む想いで進めてきたが、ようやく頭をカラッポにして眠れそうだ。

 

 最後の作業は足場の解体。丸太で組んだ足場を、番線(丸太を緊結する太い針金のようなもの)や縄を切りながらバラしていく。1人だから、誰かに押さえてもらいながらというわけにいかない。バラしていく順序が重要だ。最後の数本だけになるまで、なるべく自立していてくれるように解体を進めるのだ。

 番線にハサミをあてながら、映画の爆発物処理チームのように自問自答する。「本当に切っていいんだな⁉」「……。」「切っていいのか、どっちだ⁉」・・・慣れると何ということはないのだが、見習いの頃はヒヤヒヤしたものだった。

 

 昔、後輩が足場を解体している時のこと。ふと目を向けると、彼は自分が乗った足場のその直下の番線を今まさに切ろうとしていた。よせ!、という間もなくチョキン。途端にガタッと足元が数十センチ下がり、あわやの彼はあぶね~といった雰囲気で頭を掻いていた。

 足場も屋根も、総持ちといって、全体の連結によって部分的な弱点を補うように出来ている。だから、一箇所切断したからといって、全体が即崩壊してしまうようなことはない。とはいえ…。

 体重を乗せた自分の足元を、いきなりバラすか?さすがに分からんか?と思ったものだが、危機回避・危険察知能力の個人差か、得手不得手というものか。自分の常識を勝手に人に当てはめてはいけないものだなと、しみじみ思ったものだった。

 

 緊張感を失ってはいけない作業だが、それでも、現場の最終作業としての足場解体は清々しい。丸太をひとつ片付けるごとに、完成した屋根面が初めてあらわになっていく。あの辺は難しくて悩んだな、あの辺りやってる頃は雨ばかりで気が狂いそうだったな…、そんな振り返りとともに、屋根を見上げながら足場丸太を片付ける。

 

 屋根裏で足りないかもと思い、下に降ろしてみて多過ぎたかもと思った茅は、見事あいだをとってほぼピッタリ使い切って終わった。来週からは長雨の予報。わずかに続いた最後の晴れ間に、仕上げから撤収まで駆け抜けきった。いろいろ大変だったが、終わり良ければというもの。無事に終えられたことに、ただひたすらありがたやの気持ち。