vol.196 からすどまりにカラスがとまる

 美山近郊に見られる茅葺き屋根の棟のタイプは"置き千木(ちぎ)"と言われる型。このタイプの棟のてっぺんには"ユキワリ"と呼ばれる横向きの木材がすえられる。

 降った雪が表面と裏面に分かれて落ちる箇所だからだろうか。棟にまたがる形で乗る千木のことは"ウマノリ"というし、なかなかそのまんまなネーミングだ。

 ユキワリは、しばしば"からすどまり"とも呼ばれる。これも言うまでもなく、カラス他の鳥類がよく止まり木にしているからだろう。お施主さんの中にも、棟の部材のことをひっくるめて"からす"と呼ぶ人が少なくない。「…数年前の台風で、からすが落ちてしもたんや…」・・・知らない人が聞けば、言い伝えか何かと勘違いしそうである。

 

 現在差し茅中のお家の茅葺きにも、2羽のカラスが日課のように訪れる。理由は知らないが、ユキワリ…からすどまりの西側にいつもとまってガヤガヤしている。

 屋根屋として気になってしまうのは、その直下のケラバである。表も裏も、同じ辺りで茅が激しく抜けている。しばし観察していると、カラスは棟に直接飛んでくる他に、屋根の下方に着地してから、チョンチョンと屋根上を移動して棟に向かったりもする。茅が抜けているのはそのルート上だ。

 土化した屋根の中からエサの虫でも探すのか、はたまた面白がって"茅抜きごっこ"をしているのか。とにかく茅葺き屋根には良くない。コノヤロ~と思いながら見つめるが、どうやらあちらもこっちを観察している。今自分が工事している離れのそばには、今まさに旬のカキが熟れている。おそらくそれ目当てにカラスは通っているのだろう。「アイツまた来てやがる…邪魔なんだよな。」そう思われているのはこちらかも知れない。

 

 屋根の下方にはカラスが抜いたらしい短い茅がたくさん落ちている。離れの隣にある蔵にはハトが住み着いていて、工事中いつも蔵の中からクルックークルックー♪と聞こえてくる。そのハトが、カラスが抜いた茅をくわえ、せっせと蔵の中に運び込んでいる。巣作りに利用しているのだろうか。

 施主にも屋根屋にも困り物だが、動物たちの営みは見ていて可愛いからまた困る。カラスを手懐け、高所の差し茅でもしてくれるようならいいのだけれど。