vol.193 曲がり茅

 今年届いた茅は概ね質の良いものが多かった。同じ人が同じ土地で刈ったものでも、年によって品質が大きく変わるのが、茅という建築材料の特殊なところだ。

 取引している刈り手さんから、茅刈りシーズン途中に相談があった。今年は曲がった茅が多く、例年並みの数を送るのが難しい、とのこと。

 曲がった茅でも何でも送ってしまえ、ではないプロ意識が嬉しい。こちらはいい茅でも悪い茅でも、同じ値段で買うと約束している。そんな中で、少しでも良い茅束を送ろうと選別して刈ってくれているのは、この上なくありがたく、そして嬉しい。

 少しくらい曲がった茅束があっても問題ない。そこから先は職人の腕の問題。だから構わないから刈って送って欲しいとお願いした。信頼出来る相手だからこそ、規格条件を譲ろうという気にもなれる。

 屋根になるのは、原則として茅の根本部分だ。だから、根本さえ真っ直ぐなら、あとは使いようである。今回は、根本から120㎝程度真っ直ぐであれば、あとは曲がっていても構わない、という条件でまとまった。

 

 1台目のトラックで届いた茅は倉庫に収納した。過去一、二を争う良い茅ばかり。残りの茅は、ちょうど始まる現場へ直送してもらうことにした。段取りとしては完璧だったのだが、ひとつ思わぬ落とし穴があった。

 曲がった茅でもよい、という合意のもとで刈り始めた茅が、全て2台目の、現場直送のトラックに載ることになったのだ。なるほどよう曲がっとるな~、と思いながら降ろしていたら、6~7割近くがそんな茅だった。

 こうなると真っ直ぐな茅が途端に貴重になってくる。曲がった茅を、上手に消化していかなくてはいけない。ここはあえて、軒裏から見える化粧の編み付けで使い始めることにした。ここは茅をひと掴みずつ、屋根の下地に地道に編み込んでいく作業。だから、わんぱくに曲がった茅も、曲がり方を揃えて並べられる。裏から見えるのは根元の方だけだから、その点も問題はない。

 

 並べ終わってみると、生えている茅が風になびいている姿そのものみたいになった。これはこれでいいかも知れない。上手に曲がりを揃えて並べたことに自己満足した後、穂先を切り落とせば良かったのかと気付く……。