御殿場での茅刈り研修に続いて、今回は京都伏見にて、ヨシ刈り及びヨシ焼きの研修に参加させて頂いた。
ヨシはつまり葦(あし)。"悪し"よりも"良し"の方が縁起が良かろうと、そう呼ばれるようになったらしい。ススキと並んで、日本の茅葺き屋根の主力材料ツートップと言えるであろう素材。屋根材として扱ったことはあるけれど、刈るのは初めての体験だ。
一口にヨシと言っても、産地によって特徴は大きく違う。自分がこれまで使い慣れていたヨシは、素人目にはススキと変わらない程度のものだったが、伏見のヨシは驚くほど背が高く太い。仮に自分の仕事現場にこのヨシがあったら、さぁどのように扱うべきか。興味は尽きない。
初めてはもうひとつ。茅場の火入れである。
地元でも、今でも春先に行う畔焼きの風習が残っている。しかしあくまでいわゆる野焼きであり、"茅場の維持"に目的が絞られたものではない。
伏見ヨシ原の火入れは、まだ日が昇らない早朝から行われる。どうせ数時間のことなのになぜそんなに早くから…と思っていたが、風の弱い時間帯、車通りの少ない時間帯、朝露が残って火力が制御しやすい時間帯…など、火入れによって起こり得るトラブルを極力回避するため、ちゃんと考え尽くされたことと知った。
茅葺き、茅採取等を生業にする立場にとって、"火のトラブル"はシャレにならない事態だ。以前は立ち枯れのヨシをそのまま燃やしていたらしいが、今では安全のため、茅場の全てのヨシを刈り倒してから火入れが行われるそうだ。
ふ~ん、と聞き流してしまいそうなことだが、これはとてつもなく大変なことである。そもそも茅刈り自体重労働なのだ。その上、刈れるに値する上質なヨシの割合は多くなく、5~6割は刈れないらしい。
つまり広大なヨシ原の中で4割程度の良質のヨシを選んで刈り取り、そして良質な茅場の維持のために火入れをする。安全に火入れをするためには、残った5~6割のヨシさえも刈り倒す必要がある、ということである。気の遠くなるような作業だ。
そして火入れの期間そのものが、非常に神経を遣う数日であろう。火、水、土、風…全ての状態に目を光らせ、関係諸機関と小まめに連絡を取り、万が一を起こさないように気を配る。研修で参加している分には気楽なものだが、正直、主催者にはなりたくないと思ってしまう。
研修生の中には、若い職人や、茅葺きを研究テーマとする学生さんたちもいる。一昔前(というほど自分も古株ではないが)に比べて、何と心強いことか。茅葺き、茅採取に未来への指標を見い出す目が育ち始めていることは、素晴らしいことだと思う。
けれど同時に、火入れの際に現地スタッフの職人さんが口にしていた、「これでやっと茅刈りが終わった…って気になれます」と言って見せた溜め息交じりの笑顔が、いろいろな現実を物語っているように思えた。
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