コケだらけだった面の修繕が終わった。今回の工事範囲はおおむね下半分。コケをそぎ落し、腐った茅屋根の表面を均し、その上から新しい茅を短く切ったもので葺き覆っていく。朽ちた屋根の上から、薄く葺き直してコーティングする表層葺き。我々は"さげ葺き"と呼んでいる。
茅葺き屋根の補修と言えば、"差し茅"というものが有名だ。古くなった屋根に、短く切った茅を差し込んでいく。いわば痩せてしまった屋根に茅をつぎ足し、ボリュームを復活させてやるようなものである。
局所的に直すことも、屋根全体に施すことも出来る。ただし、手遅れになる前に施すことが必要である。痛みがひど過ぎる屋根には、もはや差し茅は出来ない。
今回のさげ葺き(表層葺き)は、葺き替えと差し茅の中間に位置するような修繕方法である。古い屋根を薄く均等に均し、その上からまた薄い屋根を、新しい茅で葺いていくのである。
短く切った茅を用いるため、正真正銘の葺き替えに比べればやはり寿命は劣る。しかし、屋根の表面が新しくなることの意義は大きい。
差し茅の場合、古い茅と新しく差した茅とのマーブル模様になる。
古い茅には、どうしてもコケが再発しやすい。延命処置は出来ても、ほどなく屋根はまたコケに覆われやすい。
比べてさげ葺きは、屋根の表面は新しい茅になるため、葺き替えと同様の見た目となる。当然、差し茅のようにすぐにコケが発生することもない。
今回は下半分のみの工事。さげ葺きはその性質上、ある地点で急に終わることが出来ない。終盤は差し茅に切り替え、古い屋根とのマーブル模様を描きながら、苔むした上半分とつなげた。
苔むした茅葺きもそれなりの魅力がある。が、こうして下だけきれいになると、やはり上も直したい衝動に駆られる。屋根が「ここもかゆいから治して。」と言っているような気がしてくるのだ…。
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