新たな現場は兵庫県。葺き止まり部分の修繕のため、触るのは屋根面のてっぺんのみ。よって、いつもの丸太足場(ステージ)は設営せず、ハシゴで一気に最上部の作業範囲までワープする方法をとる。
最上部で横移動するための丸太を吊るが、これが慎重を期す作業。なにせ、最初の段階ではハシゴによる縦移動しか出来ない。横向きの丸太を吊るすためには、ハシゴで上まで登った後、何もない屋根面を何とかして移動し、吊り縄を設置し、重たい丸太を運んできて吊るさねばならない。
茅葺き屋根はトタンや瓦の屋根に比べて、角度が急である。普通の人間が、立って姿勢を維持出来るような傾斜ではない。足を滑らせれば一気に下まで行ってしまう。
しかしながら茅葺き特有の性質として、"どこにでも物が刺せる"という特徴がある。なにせ草をギュッと集めた屋根である。割れるだの裂けるだの関係ない。何か刺して穴が開いたら、その辺をポンポンと叩いてなじませたら大体元通りである。
だから茅葺き職人は、大きな針を持って屋根に上がり、それで屋根面を進む。ハシゴから手の届く離れた位置に針を刺し、片足を乗せる。重心を移したら、さらに先に別の針を刺し、もう片足をそちらに移す。そして1本目の針を抜いて、3歩目の位置に刺しかえる…その繰り返しで進む。
心臓が弱い人は、下から見上げることをお勧めしない。自分自身、慣れても怖い。いや、どれだけ慣れても、ほどほどの恐怖感を失ってはならないと思う。もちろん、そんなアクロバティックなことばかりしているわけではない。命綱を使う時もあれば、ハシゴだらけにして横移動を可能にすることもある。
登山であれば、苦労して上まで登って、ついに景色を眺めた瞬間が最高だろう。
この作業は、逆かもしれない。苦労の末に作業スペースが確保出来た後、無事地上に降り立った瞬間に、初めて肩の力が抜ける。
今日はひたすら、各屋根面の丸太吊り。これで明日からは存分に茅を扱える。
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